汗っかきの水分補給の話は、ふつうの「こまめに水を飲みましょう」で済ませられません。人より多く出している以上、人より多く失っているからです。

とはいえネット上の情報は「経口補水液が最強」「塩をなめろ」「水中毒に注意」が混在していて、どれをどこまで信じればいいのか分かりにくい。ここでは、厚生労働省の「職場における熱中症予防対策マニュアル」に書かれている数字を軸に整理します。屋外作業のための資料ですが、汗を大量にかく前提で書かれているぶん、汗っかきの生活にそのまま使える記述が多い資料です。

1. 汗と一緒に何が出ていくのか

汗は水ではありません。ナトリウム(塩分)をはじめとする電解質が一緒に出ていきます。

同マニュアルには、順化(暑さへの慣れ)との関係でこんな数字が出ています。

暑熱環境にさらされていない労働者は、一日に15〜20gもの食塩を発汗で失うことがありますが、順化によって、一日3〜5g程度の喪失に抑えることができます。

15〜20gと3〜5gでは、4倍前後の差があります。 同じ量の汗をかいていても、体が暑さに慣れているかどうかで失う塩分がまるで違う。ここが「夏の初日がいちばんきつい」ことの一因です。

水分のほうはどうか。同マニュアルは、一般生活における出入りをこう書いています。

一般生活において、人間は、1.0〜1.5ℓ/日の水分を失うことになり、最低、700㎖/日程度の水分を摂取する必要があります。

これは特に汗をかかない生活での話です。汗っかきが夏に通勤して仕事をした日は、当然これを大きく超えます。

2. 水だけ飲むと何が起きるか

いちばん押さえておきたいのがここです。

また、大量に汗をかき水分とナトリウムを失った後、水分のみを補充した場合など、血液中のナトリウム濃度が低下し過ぎると、それが筋肉の収縮を誘発して、工具を握っている手を自分では開くことができなくなったり、手足がつったりすることがあります。このような状態を「熱けいれん」と呼びます。

つまり、「たくさん汗をかいた日に、水だけをがぶ飲みする」は、対策のつもりで逆を踏む場合があるということです。足がつる、指がこわばる、といった形で出ます。

「水をたくさん飲めば汗が薄まって、においも汗染みもましになるはず」と考えて水だけを増やす人がいますが、大量発汗の日に水だけを大量に足す運用は、この記述の通りリスク側に振れます。

喉の渇きは、あてにならない

もうひとつ、感覚に頼れない理由が書かれています。

しかし、人間は、脱水状態が軽いときは口渇感を感じることができません。また、発汗等により体内のナトリウムの量が減っても、脱水状態が軽く、血液中のナトリウムイオン(Na+)の濃度が変化していないときは、水分及びナトリウムの不足を感じることができません。

さらに、

実際に、運動や作業の後に、口渇感に任せて水分を摂取させていても、脱水状態が完全には回復しないことがわかっています。このような場合であっても、水分やナトリウムの調節よりも体温の調節のほうが優先されますので、必要な発汗は続くことになります。

最後の一文が、汗っかきにとっては特に重要です。脱水していても、体温を下げる必要があれば汗は出続けます。 「水を控えれば汗が減るのでは」という発想は、ここで否定されます。控えても汗は出て、脱水だけが進みます。

3. 何を、どれだけ

具体的な数字が出ているのはここです。

定期的な水分及び塩分の摂取については、作業強度等に応じて必要な摂取量等は異なりますが、WBGT基準値を超える場合には、少なくとも、0.1〜0.2%の食塩水又はナトリウム 40〜80㎎/100㎖のスポーツドリンク又は経口補水液等を、20〜30分ごとにカップ 1〜2杯程度は摂取することが望ましいところです。

表にするとこうなります。

項目記載されている目安
中身0.1〜0.2%の食塩水 / ナトリウム40〜80mg/100mLのスポーツドリンク / 経口補水液 等
頻度20〜30分ごと
カップ1〜2杯程度
前提WBGT基準値を超える場合。自覚症状の有無にかかわらず

買うときに見る場所は「ナトリウム(mg)/100mL」の表示です。 商品名や売り文句ではなく、栄養成分表示の数字を見れば、上の40〜80mg/100mLという物差しに当てられます。0.1〜0.2%の食塩水は、水1Lに食塩1〜2gの濃度です。

表示が「食塩相当量(g)」でしか書かれていないこともあります。その場合は、食塩相当量0.1〜0.2g/100mLがだいたいナトリウム40〜80mg/100mLに相当すると覚えておくと、店頭で判断できます。ペットボトル1本(500mL)なら、食塩相当量0.5〜1.0gあたりが上の目安の範囲です。

「20〜30分ごとにカップ1〜2杯」という配分にも意味があります。一度に大量に飲むと、そのぶんが尿になって出ていきやすい。 汗をかき続ける場面では、こまめに入れ続けるほうが体内に残ります。デスクにボトルを置いて、ひと区切りごとにひと口——という運用のほうが、休憩時にまとめて飲むより実態に合っています。

なお、同マニュアルは注意も明記しています。

なお、塩分等の摂取が制限される疾患を有する労働者については、主治医、産業医等に相談させることが必要です。

高血圧・腎疾患・心疾患などで塩分制限を受けている方は、この数字を自分に当てはめないでください。 ここは主治医の指示が優先します。

4. その日のコンディションで変わる

同マニュアルには、当日の体調について確認すべき項目も並んでいます。汗っかきの生活にそのまま刺さるものを拾います。

  • 前日の飲酒。「アルコールはその分解に水分を使うことに加え、尿を多く出す作用(利尿作用)があります。前日に飲酒量が多かった時は、翌日の起床時には、普通よりも脱水状態になっており、十分な注意が必要です」。飲み会の翌朝は、すでにマイナスから始まっています(お酒を飲むと汗が止まらない)
  • 朝食を抜いていないか。「一般的に、起床時に既に脱水状態になっている」「朝食を摂ることで朝から水分を補うと、その後の暑熱作業などで体温を下げる効果がある汗も出やすくなります。また朝食は汗で失う塩分をあらかじめ補っておくことにもなります」
  • 寝不足・熱帯夜。「就寝中の発汗量が多く、また普段よりも起床時の脱水状態が著しく、熱中症に罹りやすくなります」。寝汗が多い人は、起床時点で前日より減っているという前提で朝を始めたほうが安全です(寝汗がひどい原因を切り分ける)
  • 発熱・下痢・嘔吐。「特に、下痢や嘔吐は塩分(ナトリウム)など電解質も失われてしまいます」

5. 飲みすぎ側のリスクもある

逆方向の話も書いておきます。水分は多ければ多いほど良い、ではありません。

前述の熱けいれんは、水だけを大量に補充したときに起こりうるものとして記載されています。汗をかいていない日に「汗をかく体質だから」と大量の水だけを飲み続けるのは、目的に対して手段が合っていません。

現実的な運用としては、

  • 汗をかいた日は、水+塩分。かいていない日は、ふつうに飲む
  • 一気にではなく、20〜30分ごとにカップ1〜2杯という配分で
  • 持病があれば、塩分の足し方は主治医に確認する

というところに落ち着きます。

もうひとつ、「汗をかくために水を先に大量に入れておく」も違います。 前掲のとおり、体温の調節は水分やナトリウムの調節より優先されるので、水を入れたぶんだけ汗が増えるという単純な関係ではありません。目的は「出た分を戻す」ことであって、「出す量を操作する」ことではない、というのがこの記事の一貫した立場です。

6. 「汗の量そのもの」が気になるなら

ここまで書いてきたのは、出た分をどう戻すかの話です。出る量そのものの話ではありません。

水分・塩分の管理をどれだけ整えても、汗の量は変わりません。量に困っているのであれば、それは別の相談先がある話です。日本皮膚科学会の原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版によれば、2020年に国内6万969人を対象に行われた調査で原発性局所多汗症の有病率は10.0%とされ、一方で医療機関への受診経験率は4.6%にとどまっています。

受診の入口は顔汗・頭汗は何科?に、急に汗が増えた場合の見分け方は「全身の汗がひどい」は病気のサイン?に書きました。持ち物の設計は汗っかきのカバンの中身、通勤の段取りは通勤の汗対策、旅行のときは旅行準備もどうぞ。


この記事は診断・治療を提供するものではありません。 引用した数値は職場の熱中症予防を目的とした資料の記載です。塩分・水分の摂取に制限がある方は、必ず主治医の指示に従ってください。