ジムで汗をかくのは当たり前です。問題は、当たり前の量を大幅に超えるほうの人間です。
10分でTシャツの色が変わる。マシンのシートに跡が残る。ベンチの下の床に落ちている。周りは涼しい顔でスマホを見ているのに、こちらは呼吸を整える前にタオルを探している——この気まずさは、運動の負荷とは別のところで体力を削ります。
ここでは、事前に決めておける部分だけを具体的に並べます。汗の量は変わりませんが、段取りは変えられます。
1. マシンを濡らす問題は「敷く」で解決する
いちばん気を使うのがここです。多くの施設が「使用後は拭く」ルールを掲げていますが、汗っかきは拭くより先に敷いたほうが早いです。
- 背もたれ・シートにフェイスタオルを1枚敷く。 ラットプルダウン、チェストプレス、アブドミナルなど、背中が触れるマシンでは効果が大きい
- 敷くタオルと拭くタオルを分ける。 自分の顔を拭いたタオルでマシンを拭く形になると、気まずさが一段増します
- ベンチ系はロングタオル。 フェイスタオルでは足りない場面が出ます
- 床に落ちる分は諦めない。 フリーウェイトエリアで足元に落ちるのは避けられないので、セット間に自分の足元を一度拭くのを型にすると、後ろめたさが消えます
拭くのは「マナーだから」ではなく、自分が気にせず追い込めるようにするためです。順番を決めておくと、いちいち周りを見なくてよくなります。
施設のルール上「使用後に拭く」が求められている場合でも、敷くこと自体が禁じられていることはまずありません。敷いたうえで、最後に拭く。 これが汗っかきにとっていちばん摩擦の少ない形です。
2. タオルは役割で数える
「何枚持っていけばいいか」は、枚数ではなく役割で決めると安定します。
| 役割 | サイズ | 補足 |
|---|---|---|
| マシンに敷く | フェイス/ロング | 汗が多い日は2枚 |
| 顔・首を拭く | フェイス | 首から下げない(そのまま床に落ちる) |
| シャワー後の体 | バス | 施設のレンタルがあればそれで |
| 髪 | フェイス | 頭汗が多い人は必須。乾かさずに帰ると首筋を伝い続けます |
首にかけたタオルで顔を拭く運用は、汗っかきには向きません。 汗を吸ったタオルはすぐ飽和します。ポケットやマシンの脇に置いて、乾いた面を使うほうが結果的に少ない枚数で済みます。
汗を拭くもの全般の選び方は汗拭きシートの選び方にまとめています。
3. ウェアは「吸う」より「離す」で選ぶ
綿のTシャツは、汗を吸ったあと乾きません。吸って重くなり、体に張りつき、帰り道で冷えます。
ウェアの考え方は、冬のインナーで書いた原則と同じです(汗冷えしないインナーの選び方)。
- 化繊(ポリエステル系)の吸汗速乾が基本。汗を素材の表面に広げて蒸発させる設計です
- 色は濃いか、柄があるもの。 グレーは避ける。汗染みの見え方は汗染みが目立たない服の色図鑑に詳しく書きました
- 上を1枚多く持っていく。 途中で着替えるだけで、後半のトレーニングの質が変わります
- 靴下も替える。 足の汗が多い人は、帰りに履き替えるだけで靴の状態が変わります(足汗で靴下が濡れる)
余裕があればシューズも替えると、帰り道が変わります。トレーニング用と通勤用を同じにしていると、汗を吸った靴をそのまま履いて帰ることになります。
帽子・キャップも一考の価値があります。 頭汗が多い人は、汗が額から目に入るのがいちばん邪魔です。バーベルを担いでいる最中に目にしみるのは、単純に危険でもあります。吸汗素材のヘッドバンドかキャップを1つ持っておくと、拭く回数そのものが減ります。
4. 水分と塩分は「渇く前」に
汗っかきは、同じメニューでも人より失っています。
厚生労働省の「職場における熱中症予防対策マニュアル」には、こう書かれています。
しかし、人間は、脱水状態が軽いときは口渇感を感じることができません。
実際に、運動や作業の後に、口渇感に任せて水分を摂取させていても、脱水状態が完全には回復しないことがわかっています。
喉の渇きは、脱水のセンサーとして遅れます。 屋外作業を対象とした資料ですが、大量に汗をかく前提での目安として、次の記載が参考になります。
WBGT基準値を超える場合には、少なくとも、0.1〜0.2%の食塩水又はナトリウム 40〜80㎎/100㎖のスポーツドリンク又は経口補水液等を、20〜30分ごとにカップ 1〜2杯程度は摂取することが望ましいところです。
買うときに見るのは「ナトリウム(mg)/100mL」の表示です。 汗をかいた日の水分・塩分の考え方は汗をかいた日の水分と塩分に詳しくまとめました。
運用としては、ボトルを2本持つのが分かりやすい形です。1本は水、1本は電解質入り。前半は水、後半から電解質に切り替える、あるいは交互に飲む。「全部スポーツドリンク」にすると糖分の摂取量が思ったより増えるので、時間の長いトレーニングでは分けたほうが管理しやすくなります。
同マニュアルは、体調面のチェック項目として前日の飲酒にも触れています。「アルコールはその分解に水分を使うことに加え、尿を多く出す作用(利尿作用)があります。前日に飲酒量が多かった時は、翌日の起床時には、普通よりも脱水状態になっており、十分な注意が必要です」。飲んだ翌日のトレーニングは、いつもと同じ量では足りないということです。
なお、塩分の摂取に制限がある持病をお持ちの方は、この数字を自分に当てはめず、主治医の指示に従ってください。
5. 終わったあとが本番
汗っかきにとって、いちばんきついのは運動中ではなく運動後です。シャワーを浴びても、汗が引く前に着替えると振り出しに戻ります。
- クールダウンを長めに取る。 汗が引かないうちにロッカーに向かうと、着替えた瞬間からまた濡れます
- シャワーの最後をぬるくする。 熱いままで出ると、上がってからの発汗が長引きます(風呂上がりに汗が引かない)
- 着替えは「拭いてから、少し待つ」。 濡れたまま服を着ない
- 濡れたものは袋に分ける。 ウェア・タオル・靴下をまとめて入れると全部湿ります
そしてもうひとつ、皮膚の話。日本皮膚科学会の原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版には、こう記載されています。
汗で長時間湿潤した皮膚は汗疹を生じやすく、表皮が浸軟して剝脱する。さらに真菌や細菌、そしてウイルスの感染を起こしやすいため、足白癬や尋常性疣贅を認めることがある。
濡れたものを長時間身につけたままにするのは、気持ちの問題だけではありません。 特に足元は、シャワー室・更衣室という条件も重なります。帰る前に足の指の間まで拭く、靴下を替える。これだけで条件がだいぶ変わります。
汗冷えを持ち帰らない
最後は帰り道です。
大量に汗をかいた直後に外気に当たると、濡れたウェアが体温を奪います。冬はもちろん、夏でも電車の冷房でやられます。
- 上は必ず着替えて出る(半端に乾いたウェアがいちばん冷えます)
- 首の後ろを覆う。汗で濡れた髪が首筋を冷やします
- バッグは背中に汗をかく。 帰りにリュックを背負うならリュックの背中の汗の話がそのまま当てはまります
そして、濡れたものを翌日まで袋に入れっぱなしにしない。 ジムバッグの中で一晩過ごしたウェアとタオルは、次に開けたときの状態が違います。帰ったらすぐ出す、という一手間が、においの問題をほぼ片づけます。
6. 「人より明らかに多い」と感じているなら
ここまでは段取りの話でした。段取りで消せるのは気まずさであって、汗の量ではありません。
日本皮膚科学会のガイドラインによれば、2020年に国内6万969人を対象に行われた調査では、原発性局所多汗症の有病率は10.0%(腋窩5.9%、頭部・顔面3.6%、手掌2.9%、足底2.3%)と報告されています。10人に1人の側にいる可能性は、決して低くありません。
付け加えるなら、ジムは「汗をかいていい場所」なので、生活のなかでは数少ない気の楽な環境でもあります。 ここで気まずさを感じているとしたら、それは量が突出しているサインかもしれません。人前で汗をかくことに慣れる場としては悪くない一方、「ここでもきつい」という感覚は、それ自体が情報です。
運動という「汗をかいて当然の場面」ですら人と明らかに違う、と感じているなら、それは体質として片づけなくていい話です。受診の入口は顔汗・頭汗は何科?にまとめました。
この記事は診断・治療を提供するものではありません。 運動中の体調に不安がある方、持病がある方は医療機関にご相談ください。
