試験の手汗は、他の場面の手汗と少し違います。人に見られるのが恥ずかしい、という話ではない。物理的に、答案が壊れるからです。
解答用紙の左手を置いている側がふやける。マークシートがよれて、消しゴムをかけたら破れる。シャーペンが滑って字がぶれる。マークが濡れて読み取られるか不安になる。そして試験は年に一度で、やり直しがきかない。しかも入試シーズンは、いちばん手が覆われている冬です。
手汗対策 完全ガイドの試験編として、当日と普段に分けて整理します。
答案が濡れることは、医学的にも認識されている
「手汗くらいで大げさな」と言われた経験がある人へ。日本皮膚科学会の原発性局所多汗症診療ガイドライン(2023年改訂版)の掌蹠多汗症の項に、こう書かれています。
「掌部の多汗は社交活動(握手など)やペーパーワーク、電子機器の操作等に多大なる支障をきたすため、学校生活や社会生活上の様々な場面で生活の質や労働能率を低下させる大きな要因となる」
ペーパーワークと学校生活が、名指しで入っています。 気の持ちようでも、大げさでもありません。
発症時期についても記載があります。「多汗症の中では比較的早期、小学校就学時期くらいから自覚することが多い」。2013年の国内調査では手掌の発症平均年齢は13.8歳と報告されています。受験期にはすでに何年も付き合っているというのが、多くの人の実情です。
なぜ試験でひどくなるのかも、ガイドラインの記述で説明がつきます。手のひらの汗は「暗算、恐怖、痛み、不安などの精神的負荷や深呼吸、触刺激で誘発される」精神性発汗です。暗算・不安・深呼吸。試験会場は、この3つが全部そろう場所です。しかも「精神的緊張や物を持つ時に多量の発汗を認める」とも書かれています。ペンを握る動作そのものが引き金になる。
なお、手のひらの汗は温度では出ません。ガイドラインは「手掌・足底は温熱刺激では発汗が生じない」と明記しています。冬の会場が寒くても関係ない理由は冬なのに手汗がひどいのはなぜかに書きました。
試験当日、机の上に置けるものは決まっている
ここは想像で動かず、書面を確認するのが正解です。大学入試センターの「令和8年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト 受験上の注意」には、試験時間中に机の上に置けるものが列挙されています。
- 黒鉛筆(H、F、HBに限る。和歌・格言等が印刷されているものは不可)、鉛筆キャップ
- シャープペンシル(メモや計算に使用する場合のみ可、黒い芯に限る)
- プラスチック製の消しゴム
- 鉛筆削り(電動式・大型のもの・ナイフ類は不可)
- 時計(辞書・電卓・端末等の機能があるものなどは不可)
- 眼鏡、ハンカチ、目薬、ティッシュペーパー(袋又は箱から中身だけ取り出したもの)
そして「これ以外の所持品を使用又は置いている場合には、解答を一時中断させて、試験終了まで預かることがあります」と続きます。
ハンカチは置ける。 これが最大の実務情報です。手汗持ちが試験中にできる最低限の対処は、公式に認められています。ただしタオルは上の一覧に入っていません(後述のとおり別枠の扱いです)。「タオルでいいや」で持ち込むと扱いが変わるので、机上に置くのはハンカチにしてください。
ティッシュも「袋又は箱から中身だけ取り出したもの」という条件付きです。手汗を拭く目的で持ち込むなら、この形にしておく。
「手袋(多汗症用を含む)」は、申し出れば使える
同じ書面の、もう一つ先の項目です。
「座布団、クッション、タオル、ひざ掛け、手袋(多汗症用を含む。)の使用を希望する場合は、試験開始前に監督者に申し出て許可を得てから使用してください。」
「多汗症用を含む」と、名指しで書かれています。 想定外の申し出ではありません。試験を運営する側が、多汗症用の手袋を使う受験者がいることを前提に規定を作っている。
読み取っておくべきポイントは3つです。
- 申し出るのは「試験開始前」。始まってから手を挙げるのではなく、着席後、開始前に伝える
- 許可を得てから使用する。勝手に着けない
- タオルとひざ掛けも同じ枠。机の上に置くハンカチとは別に、この申し出をすればタオルも使える
なお同じ書面には「受験上の配慮を申請し、これらの使用について許可されている場合には、改めて監督者に申し出て許可を得る必要はありません」ともあります。事前に配慮申請をしている場合は当日の申し出が不要になる、という意味です。配慮申請の要否や手続きは別の案内に書かれているので、必要そうなら早い時期に確認してください。
重要な但し書き: ここで引いたのは令和8年度の共通テストの規定です。規定は年度ごとに更新されますし、私立大学の個別入試・国家試験・各種検定は、それぞれの主催者が別のルールを持っています。「共通テストで手袋が使えたから、次の試験でも使える」とは考えないでください。必ず自分が受ける試験の書面を、自分で読むこと。
試験前と、試験中にできること
当日の段取りです。
会場に着くまで
- 手袋は「濡らさない」前提で。会場まで手袋の中が湿ると、外したあとしばらく戻りません。手袋の中が手汗でびしょびしょになるの二重づけが生きる場面です
- 走らない。体温を上げると、そのぶん引くのに時間がかかります
- コートは会場の建物に入る前に脱ぐ。暖房の効いた教室で汗をかいてから座ると、開始時点で不利です
着席してから開始まで
- 手袋を使うなら、この時間に申し出る
- 手を冷水で洗ってからよく乾かす。冷やすこと自体は手のひらの汗の引き金を消しませんが、濡れをリセットできるのは確かです
- ハンカチを机の上、利き手側に置く
- 深呼吸は諸刃です。ガイドラインは深呼吸も発汗の誘発因子として挙げています。落ち着くために必要なら止めませんが、「深呼吸すれば手汗が引く」とは思わないほうがいい
試験中
- 利き手の下にハンカチを敷いて書く。答案に直接触れる面を減らすのが、いちばん確実な物理対策です
- こまめに押さえる。こすらない。摩擦は刺激になります
- 消しゴムは強くかけない。濡れた紙は破れます。マークの訂正は落ち着いて、軽く
- シャープペンシルより鉛筆。滑りにくく、濡れた紙にも比較的書けます。芯の太さも安定します
普段の勉強中にやっておくこと
本番だけ特別なことをしても、うまくいきません。普段の勉強で同じ状態を作っておくのが、いちばん確実な準備です。
- 家でもハンカチを敷いて書く。当日だけ敷くと、感触が違って集中が乱れます
- 本番と同じ筆記具で解く。鉛筆に慣れておく
- 模試を「装備の練習」にする。手袋の申し出も、模試で一度やっておけば当日は流れでできます
- 塩化アルミニウム系を試すなら、本番の何週間も前から。肌に合うかどうかを本番当日に確かめるのは危険です。使い方と刺激の注意点は塩化アルミニウム系の制汗アイテム入門に
- 緊張側の対策も並行して。手のひらの汗は精神性発汗なので、場面設計が効きます。緊張すると汗が出る「精神性発汗」との付き合い方を
- 面接がある入試なら、そちらも別に準備する。冬の面接・就活の汗にまとめました
保護者に知っておいてほしいこと
最後に、数字を置きます。
発汗白書2026(2026年2月・15〜59歳9,459名、汗で病院あたりまえに委員会・監修 藤本智子医師)の10代の結果です。
- 汗を理由に勉強に集中できず成績に影響した: 24%
- 制服やシャツの汗ジミが目立つ: 45%
- 汗のことで恥ずかしい思いをした: 58%(全体は46%)
- 汗のことで自信を失った: 52%(全体は40%)
- 汗の悩みを誰にも相談していない: 58%
- 母親に相談: 34% / 友人に相談: 7%
10代の数字は、全世代の中でいちばんきつい。 そして6割近くが誰にも言っていません。
一方で、多汗症診療の経験がある皮膚科医師200名への調査では、94%が相談目的の受診を歓迎すると答えています。汗の悩みで医療機関を受診したことがない人は全体の90%。行っていい場所だと思われていないのが実態です。
ガイドラインは、治療について「そもそも局所多汗症の治療は患者本人が困らなければ行う必要はなく、患者自らの希望により治療は開始されるべきである」「多汗症の治療ゴールは、患者の生活の中で発汗が起こらないように常にコントロールすることではなく、あくまで患者本人が多汗のことで損なわれている自身の生活のQOLが改善されることにある」としています。本人が困っているかどうかが起点です。親が急かすものでも、我慢させるものでもない。
「答案が濡れて困っている」と本人が言ったら、それは受診の理由になります。行き先は顔汗・頭汗は何科?に、冬の汗全般は冬でも汗っかきはつらいにまとめてあります。
この記事は診断・治療の代わりにはなりません。また、試験の規定は年度・実施団体ごとに異なります。必ず自分が受ける試験の公式な案内を確認してください。

