2026年7月、汗の悩みについて国内で1万人近くに聞いた調査結果が公表されました。発汗白書2026です。
汗の悩みは「体質」「気にしすぎ」で片づけられがちで、まとまった数字がほとんどありませんでした。この白書はその空白に対する、現時点でいちばん大きな資料です。ここでは調査の設計まで含めて読み解きます。数字だけを切り取って驚くのではなく、「誰が誰に何を聞いたのか」から確認していきます。
1. 誰が、何人に、いつ聞いたのか
まず調査の骨格です。共同通信PRワイヤー経由で配信されたプレスリリースと白書サイトの記載を照合すると、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施主体 | 汗で病院あたりまえに委員会(科研製薬・久光製薬・マルホ) |
| 後援 | 一般社団法人日本臨床皮膚科医会 |
| 監修 | 藤本智子 医師(池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長/日本臨床皮膚科医会 常任理事) |
| 公表日 | 2026年7月6日 |
| 調査①(一般) | 日本全国の15〜59歳男女 9,459名(汗の悩みがある人4,767名/ない人4,692名) |
| 調査②(医師) | 多汗症の診療経験のある皮膚科医師 200名 |
| 調査時期 | 2026年2月 |
| 調査方法 | インターネット調査(調査機関: 株式会社エクスクリエ、株式会社メディリード) |
読むときに押さえておきたい前提を3つ。
- 製薬企業3社が主体の調査です。 多汗症の治療薬を扱う企業が関わっている以上、「受診を増やす」方向の関心があることは前提として読むべきです。ただし後援が日本臨床皮膚科医会で、監修者は日本皮膚科学会の原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版の策定委員でもある医師です。設計の質は担保されている側だと考えています
- インターネット調査です。 街頭でも診療現場でもなく、ネット上のパネル調査。ネットを使う層に寄る性質はあります
- 「汗の悩みがある人」と「ない人」をほぼ同数取っているのが、この調査のいちばん賢い点です。悩みがある人だけに聞くと「みんなつらい」しか出てきません。比較群があるので、悩んでいる人と悩んでいない人で認識がどう違うかが読み取れます
2. 「我慢するのがあたり前」59%
いちばん引用されている数字がこれです。
- 「汗による不便は我慢するのが当たり前」 59%
- 「汗の悩みは本人の努力や工夫で解決すべきマナーの問題」 53%
- 「体質(あせっかき)の問題」 52%
半数以上が「我慢する側の問題」と捉えている。汗が医療の対象になり得るという発想が、そもそも共有されていないということです。
一方で、同じ調査では次の数字も出ています。
- 「学校の制服や職場のスーツ着用などのルールが時代に合っていない」 65%
- 「汗をかくことについて、周囲はもっと寛容になってほしい」 61%
自分の努力の問題だと思っているのに、環境には変わってほしいと思っている。 この矛盾は、責める先が「自分」しかないと思わされている状態の典型に見えます。
汗の悩みがある人とない人で、認識が大きく割れる項目もありました。
| 汗について | 悩みがある人 | 悩みがない人 |
|---|---|---|
| 「自然な生理現象」 | 73% | 68% |
| 「恥ずかしい、隠すべき」 | 50% | 26% |
| 「不衛生・不潔」 | 65% | 46% |
「恥ずかしい、隠すべき」は、悩みがない人の26%に対して、悩んでいる人が50%。 自分を厳しく見ているのは、周囲ではなく本人のほうだ、という構図が数字で出ています。汗が実際どう見られるかについては、当サイトでは汗染みの色図鑑などで具体的に扱っています。
3. 汗を理由に「諦めた経験」58%
行動への影響を聞いた設問では、こうなっています。
- 汗が理由で「やりたかったことを諦めた」 58%(10代は65%)
- 「着たい服を自由に着られない」 27%
- 「他人と距離を置く」 20%
- 「外出を控える」 16%
- 身だしなみの悩みとして「制服やシャツの汗ジミ」 44%、「着る洋服が限られる」 36%
「汗をかく」という生理現象が、服の選択・人との距離・外出の可否まで削っている。 ガイドラインにも、多汗症の患者が労働障害や不安・抑うつの面で不利を受けているという海外研究の記載がありますが、国内でこの規模の数字が出たのは大きいと思います。
10代の数字が、いちばんきつい
年代別で見ると、10代の数字が全体より悪い項目が並びます。
| 項目 | 10代 | 全体 |
|---|---|---|
| 汗が理由で「やりたかったことを諦めた」 | 65% | 58% |
| 汗が原因で「恥ずかしい思いをした」 | 58% | 46% |
| 汗が原因で「自信を失った」 | 52% | 40% |
さらに白書サイトには、10代で「勉強に集中できず成績や学習意欲に影響」が24%、「友人との接近や接触を避ける」が38%という数字も出ています。
相談先の数字も重いものでした。「誰にも相談していない」は全体で69%、10代で58%、30代以上では7割以上。 10代が相談した相手として最も多いのは母親で34%です。
10代のほうが相談率が高いのに、心理的な打撃は10代のほうが大きい。制服という選べない服を着て、教室という選べない環境で一日を過ごすことを考えると、順当な結果に見えます。
4. 受診してよいライン — 患者と医師でズレている
この白書でいちばん実務的に価値があるのは、この対比だと思っています。
- 患者側: 「明らかに重症な場合のみ受診するもの」 47%
- 医師側: 「少しでも困っているなら受診してほしい」 73%
そして、白書サイトによれば相談目的の受診を歓迎する医師は94%。
一方で、患者側の実態はこうです。
- 医療機関への相談に「ためらいや抵抗感」がある 48%(汗の悩みがない人では27%)
- 医療機関への受診経験がない 90%
- 周囲から「不潔・不衛生と思われている」と感じる 66%、「迷惑をかけている」と感じる 65%
「重症でないと行ってはいけない」と思っているのは患者側で、医師側はそう思っていない。 この一点だけでも、この白書を読む価値があります。当サイトにも顔汗・頭汗で病院に行ったら何をされるのかという受診の体験記があります。「何をされるかわからない」が受診の壁になっているなら、先に中を見ておくのは有効です。
5. ガイドラインの数字と重ねると何が見えるか
ここは慎重に扱います。白書と診療ガイドラインは母集団も設問も違うので、単純比較はできません。
日本皮膚科学会の原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版が引く2020年の国内ウェブ調査(対象6万969人)では——
- 原発性局所多汗症の有病率 10.0%(腋窩5.9%、頭部・顔面3.6%、手掌2.9%、足底2.3%)
- 年代別では20〜49歳で10%以上。20〜39歳にピーク。手掌では15〜29歳にピーク
- 医療機関への受診経験率 4.6%、受診継続率 0.7%
この4.6%は「診断基準に該当する人」ベース、白書の90%は「汗の悩みがある人」ベースです。指している集団が違います。
それでも、両者は同じ方向を指しています。 診断基準に当てはまる人でも受診しているのは20人に1人、悩んでいる人全体では10人に1人しか受診経験がない。しかも継続できているのは0.7%——受診しても続かない。
ガイドラインには、その理由の一端と読める医師側の数字もあります。同じ2020年の調査で、**「治療選択肢が少なく積極的な治療ができない」と答えた医師が58.2%**存在した、と記載されています。行っても続かない背景には、患者側の遠慮だけでなく、治療の手札の少なさもある。ここは正直に押さえておく必要があります。
なお、頭部・顔面の有病率3.6%という数字は、当サイトの主戦場そのものです。顔汗・頭汗は何科?や多汗症の保険適用、2026年の現在地も合わせて読むと、自分の位置が掴みやすいと思います。
6. この数字を、どう自分の話にするか
統計は、自分の悩みを相対化する道具として使うのが一番実用的です。
- 「気にしすぎ」ではないことの確認に使う。 諦めた経験58%、恥ずかしい思い46%。同じことを考えている人がこれだけいます
- 「重症じゃないから行けない」の解除に使う。 医師の73%が「少しでも困っているなら」と答えています。受診してよいラインは、あなたが思っているより手前にあります
- 周囲に説明する材料に使う。 「体質だから我慢しろ」と言われたときに、有病率10.0%という数字は使えます
- 10代の子どもがいるなら、聞き方を変える材料に使う。 誰にも相談していない10代が58%。相談相手の最多は母親で34%です
このサイトの立ち位置
当サイトは医療機関ではありません。運営者は顔汗・頭汗の当事者で、医師ではありません。だからここでは、診断も治療もしません。
やっているのは2つだけです。
発汗白書2026が示したのは、「困っている人はたくさんいるのに、ほとんどが誰にも言っていない」という状況でした。その9割の側にいる人が、装備でしのぐか、相談してみるかを自分で選べる状態になること。このサイトが役に立てるのは、そこまでだと思っています。
この記事は診断・治療を提供するものではありません。 引用した数値は上記の一次資料に当たって確認したものですが、調査手法・母集団の違いには注意して読んでください。症状の判断は医師のものです。

